サッカー静岡事始め―静岡師範、浜松師範、志太中、静岡中、浜松一中… (静新新書) 静岡新聞社 静岡新聞= 静岡新聞社 2006-04 売り上げランキング : 211650 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
俺の地元静岡県は「サッカー王国」と呼ばれることが多い。ただ、その現状は「全国有数のサッカー処」と呼ぶのに相応しいのが現状だ。ただし、「我が仏尊し」と言うか「我が故郷こそ真のサッカー王国だ」と自負する方々がかなり多い。こういう方々を世間では「バカ」と呼ぶが俺にとっては「愛すべきバカ」だ。そんな「バカ」たちの名産地静岡のサッカー史を「サッカー静岡事始め」を中心に紹介していきたいと思う。
静岡蹴球史の起源
静岡県のサッカー伝来の正確な年数は分かっていない。これは日本サッカーの起源が諸説あるのと同じで、静岡県は下田・清水等の貿易港を要しており、早くから在留英国人によって伝られためと思われる。
日本サッカー協会によると日本サッカーの起源は1873年(明治6年)、築地の海軍学校に英国海軍ダグラス少佐が日本人学生に教えたことがその始まりとしている。一方、静岡県サッカー協会は静岡サッカーの起源を1919年(大正8年)の静岡県静岡師範学校蹴球部の創設であるとしている。実に日本伝来から46年もの間、静岡県には正式な蹴球部がなかったのだ。
ちなみに静岡師範から分離した旧制静岡中学校の野球部は1896年(明治29年)に創設されている。当時の静岡県の人気スポーツといえば他県と同じく1にも2にもサッカーではなく野球であった。ちなみにこんな写真があったので紹介。
静岡ホビーフェアにて |
元祖蹴球王国神戸に初めて日本人のみの蹴球団が設立されたのが19世紀末、東京師範蹴球部の設立が1896年、そして戦後の高校サッカーで激闘を繰り広げる「宿敵埼玉」から遅れること11年の蹴球部発足であった。
静岡サッカーの礎
1919年(大正8年)に静岡師範で体育の延長でしかなかった同好会が正式に蹴球部となる。「正式に」とは言ってもルールも知らず体操靴でサッカーをやっているような状態だった。同年、静岡を就学旅行中の奈良師範との対外試合では「惨敗」だったらしい。奈良師範は全員「蹴球靴」を着用していたそうな。
日本での蹴球部創設者は東京師範蹴球部OBであることが多い。埼玉師範の細木志朗、御影師範の玉井幸助、広島一中の松本寛次は皆同校OBである。静岡県もこの例に漏れず、先の同好会設立も東京師範OBによるものらしい。そして翌20年、東京師範OBの藤井春吉と広島高師蹴球部主将を務めた鈴木文夫が同校に赴任する。
藤井氏は滋賀県野洲出身で第3回極東オリンピック大会にて初めて組織されたサッカー日本代表で初ゴールを決めた名選手である。そう言えば90年代の静学には滋賀出身の選手が少なくなかったが既にこの頃から交流があったらしい。
ただ、名選手藤井が就任した当時の静岡師範は先にも挙げたように、
このころの審判はオフサイドの反則は取らなかったし、ヘディングは頭が悪くなるというので敬遠される時代だった。ルールも徹底していなかったから、部員にルールを研究させるのが大切な仕事の一つだったと言うレベルだった。その年の秋、「全国中等学校蹴球大会に初出場ながら2回戦進出」しているとのことだが、これは現在の冬の選手権との関係はない。この時期、同名の大会は至る所で開催されており、どの大会に出たのかまでは定かではない。
静岡・清水サッカーの礎 小花不二夫
静岡師範の23年(大正12年)卒業生に小花不二夫という人物がいる。氏は県蹴球協会や清水サッカー協会の要職を歴任し「王国清水」を築いた指導者の一人、小花公生氏の実父であり、1年生からGKを務めた人である。卒業後は旧静岡・清水市を中心に興津小などで教師として勤務、休日を利用して母校の蹴球部で後輩の指導に当たっている。在学中から手取り足取りの徹底した指導法には定評があったそうだ。
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氏にはこんな逸話がある。
興津小時代
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当時の教師は権限が強かった
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とは言え授業を勝手に切り上げるなど異例中の異例であった
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しかし、この男――
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「都合」と称して向かった先は――
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母校での蹴球大会の観戦だった
当然、校長に知れることとなる
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. / i f ,.r='"-‐'つ____ こまけぇこたぁ良いんだよ!!
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校長にひどく叱責されたことは言うまでもない。
当時の校長の権限は現在とは比べ様もないほど強い。この様な事態への対処は校長の意向次第で十分に「クビ」もあり得た。その中での試合観戦、大正時代の静岡にはもう既に「サッカーバカ」が生息していたらしい。
長男の公生氏は生前の父についてこう語る。
父は多くを語らなかったが、とにかくサッカーの虫だった。師範時代は、学校の近くにドイツ人の捕虜が収容されていて、その人からサッカーを教えてもらったと話していた時代は第1次世界大戦下、日本は日英同盟により参戦、青島や太平洋上のドイツ領を次々と占領していく。そこで降伏したドイツ兵捕虜は板東俘虜収容所を始め日本全国に収監されている。静岡にも18年8月25日まで収容所があったのだ。この時、日本サッカーは静岡・広島を始め随所でドイツ人捕虜を通じて欧州のサッカーを学んでいる。後のデットマール・クラマーを待たずとも日本サッカーは草の根レベルでドイツから多大な影響を受けていた。
もっともこの時に学んだのはサッカーだけではなく、ドイツ文化を始め器械体操や音楽、特にベートーベンの「第九」は随所で普及している。タラス河畔の戦い宜しく、古今東西捕虜が文化の伝導媒体になる良い例である。
その後も小花氏は静岡・清水の地に蹴球の種を撒き続ける。
1924年(大正13年)に開校した庵原中は、翌年の第1回近県中学校大会に氏の教え子らが中心となった蹴球同好会が参加、29年(昭和4年)には正式に蹴球部が発足した。同校は戦後の1949年(昭和24年)、静岡県立清水東高等学校に改称する。しかしその活躍は70年代まで待たねばならない。
台所事情
この頃の静岡師範蹴球部の悩みの種は専ら活動費不足であった。これは、当時の静岡師範の学生はいずれかのクラブに属さねばならず、発足間もない蹴球部には予算が殆ど回されなかったためだろう。このためユニフォームの制作費と遠征試合の交通費は部員が自腹を切らねばならなかった。
蹴球部の苦しい台所事情を象徴する事件が1923年(大正12年)の関東中等学校蹴球大会にて起こる。蹴球部は同大会の1、2回戦を順当に勝ち上がるも、翌週の試合を経済的な理由から参加を拒否した教官側と運動部との間に対立が生じている。この件は、各運動部から募った基金をもとに教官を説き伏せ、何とか不戦敗を逃れている。
師範学校は戦前の教員養成機関であるが、卒業後に教職に就くことが前提とされていたため、授業料の免除や寄宿舎住まいなど生活も保障されていた。しかし、それ故に師範学校には優秀ではあっても貧しい家の子弟が多かったらしく、部費に頼る面が多かったのだろう。上記2件は、後援会や父母会の制度が整っており、練習や試合で物心両面様々な援助が受けられる現代からしてみると信じ難い出来事である。
続く。
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